ワイン醸造における「澱」の役割とその活用技術
ワインの発酵や熟成の過程で自然に生じる「澱(おり)」は、単なる沈殿物ではなく、ワインの風味や質感、そして酸化防止においても重要な役割を果たします。
ここでは、澱の種類、還元作用、そして関連する醸造技術について順を追って整理します。
澱の性質による分類
■ グロース・リー(Grosses Lees/粗澱)
発酵直後に沈殿する粗く重い澱。果皮、種子、果肉などが含まれます。
異臭の原因となりやすく、通常は早期に除去されます。
■ ファイン・リー(Fines Lees/細澱)
主に酵母の死骸から構成される微細な澱。発酵完了後に沈殿し、
ワインに旨味や厚み、酸化防止効果を与えるため、熟成に活用されます。
澱のもつ還元作用(抗酸化効果)
澱、特にファイン・リーには、ワインの酸化を防ぐ「自然な還元剤」としての働きがあります。
- 酸素の吸収:澱は酸素と結びついて反応し、酸化反応を抑制
- 酸化ストレスの緩和:熟成中の酸化臭や劣化リスクを減少
- SO₂の削減効果:人工的な酸化防止剤(亜硫酸塩)の使用量を抑える
- 味わいの安定:酸化による風味変化を穏やかにする
特にナチュラルワインの生産者にとっては、SO₂を最小限に抑えるために非常に重要な存在です。

澱と関係する主な醸造技術
■ デブルバージュ(Débourbage)
発酵前の果汁を静置または冷却し、粗澱を沈殿除去する工程です。
雑味の原因となる不純物を取り除くことで、クリーンな発酵を促します。
主に白ワインやスパークリングワインで行われます。
■ シュール・リー熟成(Sur Lie)
アルコール発酵終了後、ワインをファイン・リーとともに熟成させる技術です。
この熟成により、次のような効果が得られます:
- 酵母由来の香り(パン酵母、ナッツ、トーストなど)
- 口当たりのなめらかさやコクの向上
- 酸化防止効果(自然な還元作用)
■ バトナージュ(Bâtonnage)
熟成中に澱を撹拌する工程で、澱の成分をワイン全体に行き渡らせる目的で行います。
この操作によって:
- 風味の一体感が高まり、
- 酸化抑制効果も期待できます。

まとめ
- グロース・リー:雑味や異臭の原因となる粗澱。速やかに除去される。
- ファイン・リー:旨味やコク、還元作用をもたらす細澱。熟成に有効。
- 還元作用:自然な酸化防止効果をもち、SO₂使用量の削減にもつながる。
- デブルバージュ・シュール・リー・バトナージュ:澱を活かすための重要な醸造技術。



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